本年度は、発癌作用のモデル化学物質として、ニトロソアミン(DNA障害性)、TPA(DNA非障害性、プロモーター)、TCE(DNA非障害性)を選択し、これら化学物質により特異的に誘導される遺伝子ライブラリーを構築した。また、3種の重金属(As、 Cd、 Ni)暴露における遺伝子発現解析を行い、モデル化学物質暴露における遺伝子発現パターンと比較した。その結果、これら重金属の主要な発癌作用は細胞増殖の促進、DNA傷害であることが明らかとなった。 上記の特徴は活性酸素(ROS)産生物質であるDMNQでも認められたため、ROS産生が重金属の主要な発癌メカニズムと仮定し、抗酸化物質であるアスコルビン酸処理後の細胞についても同様の検討を行った。その結果、ヒ素では細胞増殖、DNA傷害に関わる変動遺伝子数が顕著に減少したのに対し、カドミウムとニッケルではむしろ増加する結果となった。すなわち、ヒ素の発癌性においては活性酸素産生が主要な発癌メカニズムであり、カドミウム、ニッケルにおいては他のメカニズムが関与していることが明らかとなった。 さらに本研究では、発癌性マーカーとして有用であると考えられる遺伝子PTTG1が見出され、供試したすべての発癌物質、重金属において有意に発現することが定量的RT-PCR法によって確認された。重金属の発癌性はエイムズテスト等の既存の発癌評価本手法によって評価することが困難であるため、簡便かつ迅速な評価手法の開発が求められる。本研究によって得られた結果より、DNAマイクロアレイによって重金属を含む広範囲の発癌物質を評価可能であることが明らかとなり、また、見いだされた発癌性マーカーPTTG1遺伝子は機構の異なる発癌物質の包括的なスクリーニングに有用であると考えられる。
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