対流圏物質輸送モデル(CTM)は、様々な物理・化学過程を適切に取り込んで複雑になるとともに、その再現性が著しく向上してきた。最近注目を集めている4次元変分法(アドジョイント法;以下4DVAR)は、空間的・時間的変動を有する観測データという物理・化学法則にもとづく世界を、我々が持っている利用可能な最大限の知識を用いて、出来るだけ高精度で定量的・完全に記述するポテンシャルを有し、観測とCTMを統合化する手法である。本研究では、4DVARをCTMに活用し、1)4DVARによりモデルと観測データの最適な統合化を図ること、2)地上観測データ、ミー散乱ライダー観測データ、衛星観測データなどの時間空間分解能の異なるデータを同一のモデルを用いて4DVARのフレームワークの確立、3)自然起源の発生源である黄砂(ダスト)や焼き畑起源の大気成分の起源の推定等、を行うことを目的とする。本年度は、領域気象モデルRAMSのCTM部分を活用し、完全に並列計算モードで実行可能な4DVARシステムを構築し、2001年4月のACE-Asia特別観測期間のCO観測結果をもとに、4DVAR手法を応用し、東アジア域のCO排出強度の最適化を行った。その結果、中国でのCOの発生量はStreets et al.らが2000年ベースで推計した値よりも多く、160Tg/年程度であることが示され、特に上海から山東省にかけての華北平野域での発生量が大きく見積もられた。また、4DVARの変数を用いた影響関数を用いた解析から、利尻島で観測された高濃度のCO気塊の起源に関する解析が可能となった。なお、これらの成果は、現在Atmospheric Environmentに投稿中である。
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