全国各地に所在する江戸幕府や諸藩などにより建設された霊廟建築は、各地の装飾的な寺社建築の建設に多大な影響を及ぼしたと考えられる。しかし、霊廟建築に関する建築(史)学的な既往研究は、日光東照宮など、幕府が直接関与した主要建築に限定されている場合が多く、この種の建築の特質である荘厳内容に関する専門的な研究も遅れている。 そこで、本研究では、全国各地の霊廟建築を対象として、その構造・意匠面ならびに装飾技法面からの調査研究を実施し、近世における装飾建築の荘厳に関わる設計理論・手法の究明を行うとともに、当時の建築文化の実像を把握することを目的として研究を平成17年度から継続している。研究遂行に当たり、建築情報を収集整理した上で、彫刻意匠、塗装、飾金具などの内容を建築形式と関連付けて把握する点に注意した現地調査を実施するとともに、江戸幕府関係ほかの史料収集とその内容の分析を行った。調査対象建築の中には、霊廟建築以外のものもある。自明のとおり、近世における霊廟建築は多種多彩の建築要素、技術要素から成立しており、その内容は建物ごとに開きがある。このため、時間に制約がある現地調査では観察範囲を限定せざるを得なかった。 今年度は研究の最終年度に当たり、これまで実施してきた調査成果を総合するための作業などを行い、研究成果を報告書に取りまとめた。この成果報告書の内容は霊廟建築の造営形態に注目した変遷論、蟇股彫刻の題材とその配置との関係論、技法面から見た飾金具論、木彫技法のひとつである地紋彫の意味・役割論、江戸期における木地色付け技法論、霊廟建築と木地色付け手法の相関論で構成した。本研究の成果は霊廟建築のみならず、歴史的な建築の実体を把握する一研究手法を示すものでもあり、この研究意義は大きい。
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