研究課題
基盤研究(B)
立方晶安定化ジルコニアおよびセリア等の蛍石型金属酸化物結晶は、耐照射損傷性に優れることが明らかにされており、次世代の原子炉燃料や長寿命核種消滅処理を目的とした不活性母相の有力な候補材料となっている。一方、この結晶に比較的低エネルギーの運動エネルギーを伝達する電子照射を行うと、他の結晶には観察されない「特異な」照射欠陥が形成される。本研究では、この特異な照射欠陥の形成・成長過程を透過電子顕微鏡法および分子動力学計算機法により追及し、蛍石型酸化物結晶における低エネルギーはじき出し損傷の効果を明らかにすることを目的とした。以下に成果の概要をまとめる。(1)電子照射を行った安定化ジルコニア、フッ化カルシウム結晶において、{111}面上に強い歪コントラストを有する照射欠陥が形成された。これらの照射欠陥は臨界サイズに達すると消滅し、転位を発生した。転位線上には、新たに同様な照射欠陥が形成され、成長、転位への変化を繰り返した。(2)電子照射を行ったセリアにおいても同様な照射欠陥が形成された。電子エネルギー依存性の解析から、照射欠陥の性状は、1250 keV以下では酸素イオンの板状集合体、1500 keV以上ではCeおよび0から成る定比性の完全転位ループであると考察した。(3)複数の酸素イオンフレンケル対を含むセリア結晶の点欠陥緩和過程を分子動力学法により計算し、酸素イオン格子間イオンはがCe-Ce面間の{111}面上に集合することを明らかにした。(4)以上、電子顕微鏡像の解析ならびに分子動力学計算より、構成元素質量が大きく異なる蛍石型結晶では、電子照射により酸素イオンの選択的はじき出し損傷が生じ、酸素イオン格子間原子が{111}に板状集合体を形成すると結論した。この結果は、原子力材料として有望視される本構造結晶における低エネルギーはじき出し原子の重要性を示唆するものである。
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