研究概要 |
前年度に磁性強誘電体候補物質として遷移金属をドープした立方晶BaTiO_3と六方晶BaTiO_3の単結晶を作製する方法を考察した.一般的に立方晶BaTiO_3の単結晶は,大型単結晶を得るのが難しく,トップシード法など特殊な方法で育成する必要がある.我々はこの立方晶BaTiO_3の単結晶を実験室レベルで使用可能な大きさ,直径7mm長さ50mm,を育成することに成功した.さらにFeを置換した単結晶の育成にも成功した.また六方晶BaTiO_3に関しては既に大型単結晶育成方法を確立しているが,この系に対するFe置換も試み,15%程度まで可能であることを確かめた.このようにして得られた単結晶の磁性と誘電性を調べた結果,(1)六方晶BaTiO_3系では1%程度のFeドープで強誘電性が消失するが,室温以上の磁気転移点を示す強磁性的挙動を確認した.(2)立方晶BaTiO_3系では,Feを数%以上ドープすることにより強磁性が現れ,このT_cは600K程度であることを確認した.また,この系の強誘電転移点は3%Feドープ程度まで室温以上に存在するが,これ以上の組成では室温以下となることも確認した.立方晶系の磁性は強誘電性の転移点と密接に関連しており,相転移近傍で誘起される歪場とスピンの結合が示唆された.系の不均一性に起因するリラクサー的強誘電性と磁化の異常(増加)は結合しており,このリラクサー的挙動はラマン散乱のセントラルピークの強度の温度変化ともよく一致した.これらの結果から,乱れた系の超交換をベースとする磁気的相互作用は局所的な対称性の変化によく対応することを確かめた.なお,Feをドープした六方晶BaTiO_3単結晶の強磁性発現のメカニズムは2つ存在するFeサイト間の特異な磁気的相互作用に起因することと計算により確かめた.
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