研究概要 |
本年度得られた結果は以下のとおりである。 (1)時間パラメータを規格化するための拡散実験:Fe-Cr-W, Fe-Cr-Mo, Fe-W-Re, Fe-Cr-Reの各三元系における相互拡散係数を求めた。これらの実験で得られたフェライト系合金における耐火金属元素の相互拡散係数を元に算定した有効拡散係数を求めた。これらの値は組織変化シミュレーションを行う際に用いる易動度の値を決定するデータとなる。また、この実験を行う中で、CrとMo、およびWとReはお互いに引力作用を及ぼし、Fe中における拡散を抑制する効果があることがわかった。これに対し、CrとWはFe中でお互いに反発し、Crの存在はFeとWの相互拡散を助長させる効果をもつことが示唆された。 (2)ラスマルテンサイト相の階層構造:ラスマルテンサイトの階層構造の時間発展シミュレーションに用いる初期構造を実験的に決定した。実用10Cr系耐熱鋼の調質組織をSEM/EBSDで結晶方位解析像を取得し、マルテンサイト相の結晶方位の24バリアントを基に実験データを解析し、階層構造変化のシミュレーションに用いるための初期組織情報とした。 (3)組織変化に対する外部応力効果の検討:昨年度までに調質組織のマルテンサイト相の組織自由エネルギー変化は数十J/molであることを得たが、本年度は外部応力によってどの程度のエネルギーが蓄積されるかを、オーステナイト鋼を用いて評価した。その結果クリープ中に蓄積されている歪エネルギーはほぼ1J/mol程度であり、クリープ破断材では1.7〜2J/molほどであることがわかった。マルテンサイト鋼では、初期のマルテンサイト組織が高い転位密度と歪エネルギーをもっており、焼戻しによってそのエネルギーが解放されてほぼ1J/mol程度に漸近するが、その値とほぼ同等な量がクリープ中に蓄積されることが示唆された。
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