燃料電池はクリーンなエネルギー技術として幅広い分野において応用が期待されている。自動車のような大出力を要求されるものに対しては水素あるいは空気を燃料とする固体高分子形燃料電池(PEMFC)の開発が行われている。一方携帯電話やノートPCといった小型携帯機器用としては、低温作動が可能であり、短時間起動が容易な、直接メタノール形燃料電池(DMFC)が適している。しかし、実用化のためには現在の10分の1程度の小型化が必要となる。そこで問題となるのが、燃料である液体メタノールの供給法である。現在は小型ポンプを用い燃料を供給しているが、更なる小型・軽量化のためにはポンプを用いない新しい燃料供給手法の確立が急務である。そこで本研究ではマランゴニ対流を積極活用し、ポンプを用いない、従来に無い全く新しい燃料供給システムを備えた小型・軽量直接メタノール形燃料電池を開発するための基礎研究を行い、以下の成果を得た。 (A)気流二相流の影響; 発電中に二酸化炭素が気泡として溶液中に発生した場合の、マランゴニ対流に及ぼす気泡の影響に関して数値解析を行った。その結果気泡は自由界面上の界面張力勾配を著しく乱し、マランゴニ対流を大幅に抑制することが判った。また発生した気泡は触媒表面での化学反応を抑制し、電流密度を著しく低下させることも定量的に判った。この解析により限界電流密度の算出が可能となった。 (B)温度差マランゴニと濃度差マランゴニとの共存効果; 温度差と濃度差の両方のマランゴニ対流共存効果に関して数値解析を行った。温度差マランゴニ対流は領域全体の流動形態を決定するのに対し、濃度差マランゴニは局所的な流動形態に影響を及ぼすことが判った。特に濃度差マランゴニは流動に伴い自由界面上の濃度差が均一化するため誘起される対流速度は遅いことが判った。
|