研究概要 |
本研究の目的は「抗体可変領域(Fv)断片の抗原による安定化を利用した新原理免疫測定法(OS法)を利用して,低分子環境汚染物質の網羅的な高感度検出系を作製すること」にある。本年度は主に以下の3つの成果を得た。 (1)ファージライブラリから得られたFv遺伝子を用いた迅速OS法の確立 前年度に低分子およびタンパク質性抗原で免役したマウス脾臓から抗体cDNAライブラリを一本鎖抗体(scFv)として繊維状ファージ表面に提示させて特異的な結合クローン多数の取得に成功した。本年度はこれら得られたクローンから,組換え酵素とPCR法を用いて高効率にVH提示ファージおよびMBP-VL融合タンパクを得られるシステムを確立した。またもう1つのシステムとして,より安定なFab断片の形でファージ提示を行い,抗原選択後にベクターを制限酵素切断し再環状化する簡単な操作でVH提示ファージとL鎖の両者が同時発現可能なシステム(pDongシステム)を開発し,モデルパニングに成功した。 (2)OS原理に基づく環境汚染物質測定チップの構築 これまでの低分子OS-ELISAをマイクロ流路上で行うために測定素子の固定化条件,酵素標識の反応条件等の検討を行い,これまで不可能であった血清中での低分子ペプチド測定に成功した。更に微小基盤を用いた測定原理として,ISFETを用いた高感度なBisphenolAの電気化学的測定に成功した。 (3)VH/VL相互作用の弱い合成Fvファージライブラリの構築 新規に開発したFab提示系に,VH/VL相互作用が弱いことが期待されるフレームワーク領域を持つ抗体の4個の相補性決定領域(CDR)をランダム化したライブラリを組み込み,ファージライブラリ(VHおよびVLを提示するファージライブラリ)を作製した。このファージライブラリを用いて今後パニングを行うことで,各種の抗原に対し十分な親和性を持ち,かつオープンサンドイッチ法に適した抗体が得られると期待される。
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