アデノシン三リン酸(ATP)は生命エネルギーの通貨と言われ、多くの酵素がATPをエネルギー源あるいはリン酸化の基質として利用している。我々はポリリン酸をリン酸化の基質として利用するポリリン酸グルコキナーゼ(PolyP-GK)を発見した。ATPグルコキナーゼ(ATP-GK)とPolyP-GKの一次構造の比較からATP-GKは比較的小さなドメインを獲得してPolyP-GKから進化したものと考えられた。そこで、ATP-GKとPolyP-GKの立体構造を詳細に比較して、ポリリン酸を基質にする動作原理と、ポリリン酸からATPへ変化した生命エネルギー変遷の進化メカニズムを解明することを目的とした。今年度はスプリング8においてPolyP-GKの結晶を解析し、得られた回折像から構造解析を行った。解析に約1年を費やしPolyP-GKの構造をようやく紐解くことが出来た。ポリリン酸グルコキナーゼ(PolyP-GK)の構造とATPグルコキナーゼ(ATP-GK)との厳密な構造比較を行った。その結果ATP-GKとPolyP-GKの立体構造は基本的によく似ていたが、基質が結合する領域で違いが見られた。大きく違う点はATP-GKにアデノシン認識領域が存在することであった。今後、ポリリン酸とATPの両方を利用するグルコマンノキナーゼ(PolyP/ATP-GK)との立体構造を詳細に比較することにより、PolyP-GKからPolyP/ATP-GKさらにはATP-GKへと変化する構造変化を追跡する予定である。
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