研究概要 |
アデノシン三リン酸(ATP)は生命エネルギーの通貨と言われ、多くの酵素がATPをエネルギー源あるいはリン酸化の基質として利用している。ポリリン酸(polyP)はATPと同じ高エネルギーリン酸結合からなる無機ポリマーであり、原始生命が生まれた環境中に多く存在したと考えられている。Pillipsらの仮説によればATPグルコキナーゼ(ATP-GK)はポリリン酸グルコキナーゼ(PolyP-GK)から進化したものとされている。我々はATP-GKとPolyP-GKの立体構造を詳細に比較して、ポリリン酸を基質にする動作原理と、ポリリン酸からATPへ変化した生命エネルギー変遷の進化メカニズムを解明することを目的とした。スプリング8においてPolyP-GKの結晶を解析し、得られた回折像から構造解析を行った。PolyP-GKには、長鎖ポリリン酸に結合すると考えられる超塩基性領域(Lys222, Lys223, Lys226, Lys230, Lys232、 Lys234の6つのリジン残基が三次元構造上で一直線に並ぶ領域)が存在した。この領域はビフィズス菌由来のポリリン酸とATPの両方を利用するグルコキナーゼ(PolyP/ATP-GK)の立体構造には見られないこと、またこの領域がATP結合を阻害すると考えられることから、PolyP-GKは明らかに特別に進化した形であることが予想できた。このことから、原始タイプとしてPolyP/ATP-GKが存在し、一部はPolyP-GKへ、また一部はATP-GKへと別々に進化したとする独自のモデルを提唱した。
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