研究概要 |
本研究の目的は,解明の進んでいない,「機能発現に色素合成を必須としない網膜と内耳の色素細胞の発生機構および機能発現機構を遺伝学的に解析し,それらがどのように進化してきたかを推察する」ことである。 初年度として、次の項目について解析を進めた。 1.聴覚に必須の機能を担う内耳血管条に存在する色素細胞の遺伝子発現プロファイル解析 当該領域に血管を囲むように分布する色素細胞において抗酸化ストレスに重要な機能を持つ遺伝子の高い発現を発見した。またこの細胞の内耳への移動過程を解析するにはメラニン産生に係わるDct(Dopachrome tautomerase)遺伝子の発現を追跡することが有効であると判明した(山本博、山本和)。 2.網膜色素上皮における遺伝子発現プロファイルの解析 当初網膜色素上皮のみの単離を目指したが、思わぬ困難に直面した。神経網膜と網膜色素上皮は比較的簡単に分離できるが、網膜色素上皮とその外側の脈絡膜(系譜を異にする色素細胞が位置する)をきれいに分離することが予想していたより難しく、できたとしても細胞に比較的大きなダメージを与えることがわかった。また調製できるcDNA量も多くないことが判明した。そこでこの狭い領域は「対」にして神経網膜より分離し、それぞれの領域における遺伝子発現をcDNAチップによって解析することにした。一方で、網膜色素上皮の貪食作用に必須の遺伝子産物が、一層の網膜色素上皮細胞内に於て強く遍在していることを見出した(山本博、池尾)。 3.今年度は、細胞群として純粋な色素細胞の調製の困難さに直面したが、その過程でたいへん興味深い現象を発見した。それは当研究室特産の難聴を伴う毛色変異を示す突然変異体マウスが、血管配行にもこの変異遺伝子の影響を受けている可能性である(山本博)。 以上、内耳と眼の色素細胞の遺伝子発現プロファイル解析の初年度として、今後の解析基盤が整った。
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