研究概要 |
こまでに、海藻などの天然サンプルからDNAを抽出する方法,PCR-DGGEによってクロロフィル(Chl)dを有する唯一のシアノバクテリアAcaryochloris spp.を特異的に検出するための実験系,HPLCを用いたChldの検出・定量法、Chlbが混在する場合においても微量のChldを検出定量する方法等を確立した。これらの成果を受けて平成20年度は,日本各地から海藻サンプルや海水、石,砂等を採取し,日本沿岸域におけるAcaryochlorisspp.の分布ならびにその遺伝的多様性を調べた。その結果,1)Acaryochloris spp.は,室蘭から鹿児島までにおいて採取をおこなったすべての地点から検出された,2)紅藻類だけでなく,ほぼすべての藻類から検出された、3)海藻だけでなく,海水,石等からも検出された,4)いずれのサンプルにおいても,2-5の遺伝子型のAcaryochloris spp.が検出された,5)海藻に検出されたChld量は,Chla量に対して0-15%であった。その平均は,おおよそ1%前後であった。これらの結果から,Chldを有する唯一のシアノバクテリアAcaryochloris spp.が,海洋環境に付着あるいは浮遊生物として広く分布すること,また,少なくとも2種に分けることのできる程度の遺伝的多様性をもつこと、地理的な遺伝的分化がみられないこと、Chlaに対しておおよそ1%前後存在していることがわかった。これらの結果は,これまで限られた環境にのみ生育すると考えられていたAcaryochloris spp.の分布が広範であることを示すばかりでなく,Chldが沿岸海洋環境における一次生産に一定の寄与をしていることを示唆するものである。
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