気温と日長は、植物が季節を感知するための主要な環境要因である。日長が暦に従って予測性の高い季節変化を示すのに対して、気温の季節変化は長期傾向としてのみ現れる。そのため、植物が気温から季節を感知するためには、短期の気温変動を無視して長期の変化傾向にのみ応答するような分子メカニズムが必要である。本研究では、多年生植物の生活環調節において、ポリコームグループ(PcG)タンパクが介在して発現調節がされている転写因子FLOWER ING LOCUS C(FLC)が変動する気温を長期間にわたって統合的に感知する主要メカニズムとして機能していることを示した。多年生のシロイヌナズナ属植物であるハクサンハタザオの自然集団を対象に、野外に生育する個体の葉におけるFLC転写量をほぼ1週間おきに約1年間にわたって継続測定した。近縁の一年生モデル植物シロイヌナズナで知られているのとは対照的に、多年生のハクサンハタザオではFLCの抑制は世代を経ることなしに解除された。年間を通して、FLCの転写量は過去5週間の温度環境に強く依存しており、転写の抑制と上昇がともに温度依存性であった。FLC転写量は栄養成長から繁殖生長への移行時期に対応しているだけでなく、その逆方向への移行の時期とも対応していていた。FLCは単に冬の記憶としてだけでなく、多年生の生活環においては、長期間の温度変動を量的に記憶するというより包括的な役割を担っていると結論した。
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