本研究の目的は、タバコ細胞のM期の進行を、サイトカイニンが制御している可能性を検討することである。具体的には、M期遺伝子の転写に必要なNtmybの発現(G2/M境界からM期前期)、CDK(サイクリン依存性キナーゼ)の活性化(G2/M境界)、サイクリンBの分解とCDKの不活性化(中期)、NACK/MAPKKK複合体形成とMAPキナーゼカスケードの活性化(中期から後期への進行)をとりあげ、どれがサイトカイニンの作用点であるかを解明することであった。そのために、サイトカイニンフリー培養の影響を検討した。また、サイトカイニンを失活させるサイトカイニンオキシダーゼ遺伝子を導入した形質転換BY-2細胞を作り、その効果を調べた。しかし、サイトカイニンオキシダーゼを発現させても細胞周期の進行には変化がなかった。しかし、シロイヌナズナで発現させると、G2/M期遺伝子の低下が見られた(伊藤)。また、同調化したBY-2細胞をホルモンフリー培地、trans-zeatin添加培地で培養し、細胞周期の進行を検討したが、差は見られなかった。CDKの活性も調べたが、ホルモンのあるなしに関わらず、同様の活性パターンを示した。しかし、ホルモンフリーで培養すると、MAPキナーゼの活性化因子であるNACK1タンパク質が、2倍以上蓄積していることがわかった(町田)。これらの予期せぬ結果の意味は今後の課題である。このように、本研究ではサイトカイニンの明確な作用点を見いだすことはできなかったが、M期の進行に関して以下のような知見が得られた。(1)M期の中期以前には、CDKがNACKとMAPKKKをリン酸化し、両分子の活性を抑制している。中期を過ぎると脱リン酸化が起こり、細胞質分裂が進行する。(2)シロイヌナズナのM期特異的な転写を担っている正と負のMYB因子を同定すると同時に、未同定の因子の存在を予見した。
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