研究課題
トリエン脂肪酸(TA)は植物細胞の生体膜脂質に特徴的に多く含まれる主要多不飽和脂肪酸であるが、非常に広範なストレス応答過程に関与していることが明らかにされつつある。本研究では、TAを自然界における多様なストレスに対する複雑な適応プロセスを統御する中枢因子として位置づけ、植物に普遍的に存在する同脂肪酸の代謝過程を至適化することを通じて、異種カテゴリーに属する広範なストレスに対抗しうるイネを開発することを目標とする。昨年度、TA生成酵素であるω-3デサチュラーゼの発現を抑制した形質転換イネ(F78Ri)において、いもち病菌抵抗性が向上することを明らかにした。この系統は、TA含量が減少する代わりにジエン脂肪酸が増加しているが、本年度は、この系統において、いもち病菌抵抗性が向上するメカニズムを調べた。具体的には、1)F78Ri系統の成熟葉からのオキシリピンを含む脂肪酸抽出物のいもち病菌(Race 001)に対する抗菌活性を測定した。2)いもち病菌接種後、イネにおいてハイドロキシ脂肪酸合成が誘導されることが知られている。この経路において、18:2と18:3はそれぞれハイドロペロキシ脂肪酸(HPODEs、HPOTEs)に置換され、次にハイドロキシ脂肪酸(HODEs、HOTEs)に還元される。いもち病菌抵抗性におけるこれらのオキシリピンの関与を調べるため、HPODEs、HPOTEs、HODEs、HOTEsのいもち病菌に対する抗菌活性をin vitroで測定し、比較した。3)F78Ri系統に内在するハイドロキシ脂肪酸含量を測定し、野生株と比較した。その結果、リノール酸(18:2)由来のオキシリピンであるハイドロペロキシ脂肪酸(HPODEs)とハイドロキシ脂肪酸(HODEs)は抗いもち病菌活性をもつことを明らかにした。
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