イネのいもち病菌抵抗性におけるトリエン脂肪酸(TA)の役割を調べるため、TAからジャスモン酸(JA)へと代謝する過程において、TA合成、OPDA合成およびJA合成の3段階を抑制したJA欠損形質転換系統(F78Ri、AOCRi、OPRWRi)をそれぞれ作成し、これらのいもち病菌抵抗性を評価した。その結果、F78Ri系統はいもち病菌に対する病害抵抗性が向上したものの、AOCRiおよびOPRWRi系統は野生株と同程度の抵抗性を示した。また、AOCRi、OPRWRi系統において病害関連遺伝子もまた正常に誘導された。これらの結果から、JAはいもち病菌抵抗性誘導能を保持するものの、イネはJAを介さずに抵抗性反応を誘導することができることが明らかにされた。さらにF78Ri系統における抵抗性の向上には、JA含量の減少は関与していないことがわかった。脂肪酸代謝物質には、病原菌に対して生育阻害活性を持つものが存在する。F78Ri系統の成葉抽出物のいもち病菌に対する生育阻害活性を調べたところ、野生株よりも高い抗菌活性を示した。F78Ri系統はTA合成を抑制されているため、TA前駆体であるジエン脂肪酸(DA)の含量が上昇している。さまざまな脂肪酸代謝物質の抗菌活性を調べたところ、DAに由来するハイドロペロキシ脂肪酸(HPODE)やハイドロキシ脂肪酸(HODE)は、TA由来のものよりも高い抗菌活性を持つことを示した。F78Ri系統においてHPODEが多量に蓄積していた。これらの結果から、F78Ri系統において抵抗性が向上した原因は、TA合成の抑制により前駆物質であるDAおよび高い抗菌活性をもつHPODE、HODEの蓄積であると考えられた。本研究において、我々はイネが本来持っている抗菌活性物質の含量を高めることで、病害抵抗性を向上させることが可能であることを明らかにした。
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