研究課題
基盤研究(B)
ナデシコ科のヒロハノマンテマ(Silenelatifolia)はXY型の性染色体をもっており、Y染色体があると雌蕊(♀)が抑制され、雄蕊(♂)が発達したオスの単性花(雄花)になる。一方、黒穂菌は宿主がヒロハノマンテマのように雌雄異株だった場合、雄蕊のある雄株(♂)に感染できる確率は50%ほどにしかならない。雌株(♀)に感染した黒穂菌は、雄蕊がないので、胞子も作れないし、次世代を伝播することもできない。しかし、黒穂菌は自らの子孫を残すために、感染した雌株(♀)の性を撹乱して、雌(♀)なのに雄蕊(♂)を作らせる。この現象は18世紀半ばにリンネによって記載されている。本研究課題では、ヒロハノマンテマを用いて、17年度に主に健常株をコントロールとして、18年度以降はそのカウンターパートとして主に黒穂菌感染株を用いて解析した。ただ、黒穂菌を用いる場合、感染から発症までかなりの日数を要する。そこで、平成17年度から研究活動は年度にとらわれず総合的に行っており、18年度は以下の3つのテーマを中心に分子細胞形態学的な解析を進めた。1)ABC機能遺伝子/花芽形成ホメオティック遺伝子/雄蕊特異的発現遺伝子75候補のプロファイリング:in situハイブリダイゼーション法を用いて、雄蕊(♂)原基と雌蕊(♀)原基で発現パターンを時空間的にプロファイリングした。2)雄蕊(♂)と雌蕊(♀)の抑制と発達の制御メカニズムの解明:植物において雄花と雌花という性の二形性の発現を可能にした制御メカニズムを、黒穂菌感染雌株(♀)をカウンターパートに、1)で見いだされた代表的な遺伝子(SIM2、SIAP、SILFY、SIWUS、SIUFO、SISUP)を調べた。特に、SISUPに注目して、ヒロバノマンテマのSUPがシロイヌナズナでも雄蕊(♂)に対して抑制的にはたらくことを確かめた。また、SIWUSのX染色体連鎖も確かめることができた。3)宿主の細胞間隙に潜む共生菌が標的細胞や組織を見出すメカニズムの解明:黒穂菌をモデルに、個々の細胞の挙動と分布をin situハイブリダイゼーション法を用いて調査した。黒穂菌感染株をカウンターパートとし、SIWUS、SIUFO、SISUPの発現解析をすることで、黒穂菌と花芽形成ホメオティック遺伝子の関係が明らかになりつつある。
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