本学の電子科学研究所と共同で開発した光テレメーターシステムを用いて、水中で傾斜面を自由歩行中のアメリカザリガニProcambarus clarkii無麻酔全体標本から、姿勢制御に関与する平衡感覚性の腹随下行性介在ニューロン活動を記録するとともに、同時に動物行動をビデオ撮影して、神経活動と行動状態との関係を定量的に比較解析した。ユニット分離は、オフラインでスパイク波形識別アルゴリズムによりソフトウエア的に行った。その結果、尾扇肢(姿勢制御に関わる腹部付属肢)の運動に関与する同定介在ニューロンであるC1の活動は、歩行運動時に大きく増加し、平衡胞からの体傾斜情報を表現することが明らかになった。すなわち、体長軸回りの記録側下降傾斜および体横軸回りの頭部上昇傾斜に対して活動電位発射頻度の上昇を示し、記録側上昇傾斜および頭部下降傾斜に対しては活動電位の減少を示した。ただし、この場合、統計的に有意な違いとしては観察されなかった。しかし、ビデオ撮影で得られた詳細な行動状態と照らし合わせて解析した結果、そのスパイク活動は腹部姿勢の状態によって大きく影響を受けることが判明した。すなわち、前方歩行の腹部伸展時には、全般的な活動電位発射頻度が低下して体傾斜情報を表現しないのに対し、後方歩行の腹部の屈曲時には、活動電位発射頻度が上昇して体傾斜情報も明確に表現していた。この場合、スパイク活動の上昇および減少は、水平姿勢における自発的な活動電位発射頻度と比較して統計的に有意な違いを示した。これらの結果は、行動文脈依存性姿勢制御は、平衡胞情報が脳から腹随を下行する段階ですでに開始されている可能性を示唆しており、特に脳内の局在性ニューロン活動を記録解析する必要性が示された。
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