甲殻類における行動文脈依存性の姿勢制御を明らかにする目的で、昨年度までに、光テレメータ装置を用いて自由行動中のアメリカザリガニからその脳活動を細胞外的に慢性誘導する方法を確立した。この方法で中枢ニューロン活動を行動と関連づけて解析することによって、平衡感覚性介在ニューロンが脳内表示する感覚情報が動物行動の微妙な違いによって大きく変化することを明らかにした。しかし、細胞外誘導では、ここのニューロンでのシナプス活動およびその統合過程を知ることができないため、ガラス管微小電極を用いた細胞内記録法を適用する必要が生じた。そこで、本年度は、動物の歩行行動を定量的に記録解析することが可能なトレッドミル装置をあらたに開発し、その上を歩行中の動物から脳内ニューロンのシナプス活動を記録し、歩行記録と合わせて解析する方法を確立した。姿勢制御に直接関わる平衡感覚性介在ニューロンの活動記録には現段階では成功していないが、姿勢制御と密接に関係する歩行運動については、その自発的な開始、継続、終了に関わる下行性介在ニューロンを多数同定するとともに、歩行行動と関連づけてそれらの活動変化を明らかにすることができた。また、刺激によって誘発される歩行運動と自発的に開始される歩行運動とでは、異なる下行性介在ニューロンが賦活されることから、それぞれの開始に関わる脳内メカニズムが異なる可能性が示された。細胞内染色による樹状突起投射部位の解析から、特に自発的な歩行の開始には中心複合体および前大脳橋を含む前大脳が重要な働きをすると推定された。
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