研究概要 |
初年度は、光テレメータ装置を用いて、水中を自由行動中のアメリカザリガニの腹髄から,平衡感覚性介在ニューロンの活動を細胞外誘導すると同時に動物の行動をビデオ撮影し、神経活動を動物の姿勢・行動と対応させて解析した。その結果、脳から胸部へ腹髄を下行するスパイク活動が、1)動物の静止/活動状態によって変化するニューロンと変化しないニューロンが存在する、2)変化する場合は、同じ腹部姿勢運動でも、伸展と屈曲とで体傾斜に対する応答が大きく異なる、3)ニューロンによって上記の特性は一定である、等の知見が得られた。これらの結果は、脳から平衡感覚情報を胸肢(歩脚)および腹肢(尾扇肢を含む)の運動中枢へ伝える下行性介在ニューロン活動が、動物の行動状態あるいは前後関係(文脈)によって、同一の体傾斜に対して異なることを示しており、姿勢制御が単なる機械的反射に基づくのではなく、動物の行動文脈に応じて適応的に行われるための神経基盤となっていることを示唆している。このような神経活動の行動依存的な変化が脳内のどのようなシナプス活動に基づくのかを明らかにする目的で、次年度には、光テレメータ装置を用いて脳内ニューロン活動を細胞外誘導する方法を確立した。慢性電極を脳内に埋め込みことにより、局在ニューロンを含む脳内ニューロンからそのスパイク活動を記録するための、そして最終年度には、トレッドミル装置を用いることによって、歩行中/腹部姿勢運動遂行中の動物の脳から細胞内的にシナプス活動を記録解析するための、それぞれ技術的基盤を確立することができた。現時点では、これら手法の平衡感覚性介在ニューロンへの適用には成功していないが、方法論的には当初の目標を達成することが出来た。これまでに、姿勢制御と密接に関係する歩行運動および腹部姿勢運動中に選択的に活動を変化させる多数のニューロンの同定に成功し、それらの樹状突起が共通して前大脳に投射することを見出した。
|