研究概要 |
テンナンショウ属のマムシグサ節全体の系統解析により日本産のヒロハテンナンショウに近縁なグループを特定し、特定された「ヒロハテンナンショウ群」(ヒロハ群)について詳細な分子系統地理学的な解析を行い、このグループの種分化と、過去の分布変遷について考察した。まず葉緑体DNAによる大きな解析によりヒロハ群を再定義した。次いでヒロハ群の分布域から網羅的にサンプリングを行い、染色体数の調査を行った。分子遺伝学的解析は葉緑体DNAの3領域(trnL-trnF, psbB-psbH,rp120-rps12)の塩基配列を決定して、変異を調べた。また倍数体の起原をさぐるため、複数の核DNAマーカー(Phytochrome A/B/C遺伝子,Aggle Lectin遺伝子,FLO/LFY遺伝子)を用いたスクリーニングを行った。その結果以下の点を明らかにすることができた。 1.ヒロハ群は日本に固有であり、カラフトヒロハテンナンショウやアムールテンナンショウを含まない。姉妹群はユモトマムシグサ群である。 2.ヒロハ群には染色体数x=13の2、3、4、5倍体のほかに、6倍体があることを明らかにした。2倍体は中部地方ばかりでなく、岩手県、岡山県にも分布していた。また、5倍体は北海道ばかりでなく青森県にも分布し、6倍体は北海道東南部に分布することが明らかとなった。 3.葉緑体DNAの多型解析により、ヒロハ群では6種類のハプロタイプ(Type A-F)が区別された。TypeAがすべての倍数体に分布しているほか、4倍体には地域的にType B、C、EとFがあった。また、Type Dは2倍体であるイナヒロハテンナンショウに固有であった。 4.現在のところ、副芽形成を派生形質とする4倍体が複数回起源であると示唆する証拠は得られていない。ヒロハ群内での倍数化の起源や遺伝子流動を探るため、single copyの核遺伝子を解析に用いることが重要であると考えられるが、Phytochrome B遺伝子が最も有望であるとみられる。 5.岡山県から2倍体の新種ナギヒロハテンナンショウを発見し、記載発表した。
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