緑茶成分であるカテキンが核酸と相互作用することを見出し、新規な作用機構を発表した。日本人がよく飲む緑茶に含まれるカテキン類には、強い抗酸化作用のほか、突然変異抑制作用やがん予防効果がある。発がんの原因の1つであるDNA酸化障害をカテキンが減少させることは明らかにされているが、緑茶を飲用する程度の量のカテキン類の摂取で、どのようにがん予防効果が見られるのかその機構は完全には解明されていない。私達の研究は、その機構をDNAのレベルから明らかにするという新規な研究を行った。これまでカテキンの標的としてはタンパク質や脂質が研究されてきており、私達が今回明らかにしたようにDNAが直接ターゲットとなっているという知見は全く新しいものである。この成果はカテキンの作用機構を考える上で今後重要な概念となることが期待される。またカテキンは遺伝子発現を変化させる、DNAダメージを防ぐ、DNAポリメラーゼ活性やDNA上の様々な反応に影響を与える、DNAダメージを引き起こす、DNA切断活性、DNA複製阻害、転写阻害など多様な活性があることから、広範な生物分野への応用が可能である。さらにカテキンとDNAやRNAの相互作用解析を通して、緑茶カテキンの遺伝子保護作用→がん予防効果のメカニズム、がん化防止や老化防止への作用メカニズムが解明されることが期待できる。 さらに、ヘリコバクター・ピロリによる胃がん発症機構の新モデルを提出した。これまでにヘリコバクター・ピロリにおいて、細胞由来の発がんプロモーターであるTNF-αを誘導する因子としてTipα遺伝子を同定し、Tipα蛋白質が発がんを誘導する活性を有すること、NF-κBを活性化することなどを報告してきた。Tipαは、2量体形成により、細胞にTNF-αを誘導、がん化を促進する。2量体形成ができない変異体であるdel-Tipαは、がん化の活性を示さない。 一方、ケモカインはがん化を引き起こす炎症性サイトカインとして解明されてきているが、ヘリコバクター・ピロリのどの分子がケモカインを誘導するかはまだ分かっていなかった。 今回、申請者らはTipαが発現誘導する遺伝子を包括的に調べたところ、多数のケモカイン遺伝子群が誘導されることを見出した。また定量的PCRにより、その発現量を検定した結果、コントロールや不活性型のdel-Tipα処理した細胞に比べ、活性型のTipαは数十から数百倍もケモカインの遺伝子発現を亢進することが見出された。そのことから、Tipαは、炎症性サイトカインであるケモカイン因子群やTNF-αを誘導することによって、胃細胞のがん化を促進する重要な因子であることが解明された。このTipαの立体構造解析は現在進行中である。
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