補体レセプター1(CR1)は、赤血球、単球/マクロファージ、顆粒球、B細胞、いくつかのT細胞、脾濾胞性樹状細胞、糸球体有足細胞の細胞膜に存在する約220kDaの膜糖蛋白質である。sCR1は、CR1の膜貫通ドメインを改変することによって可溶化したもので、補体系の活性化を抑制する免疫抑制因子として注目されている。sCR1は補体経路で中間産物の活性型C3b及びC4bを結合し、factor Iとの共活性によりこれらの補体成分を分解、不活化することで、最終的にネクローシスを阻害する。 これまでにも細胞培養液上清からのsCR1の精製法が報告されているが、多くは高価な細胞増殖装置や精製用カラムシステムを必要とする上に、煩雑なステップから構成されているため、sCR1の大半は途上で変性してしまい、精製効率が低い。このようなsCR1では、結晶化は当然困難であるし、網内系細胞膜に存在するsCR1は、培養・精製条件に敏感で、よりインタクトな状態を保持し難い。sCR1の結晶化、立体構造の解明は待望されてはいるが未だにそれを可能とする手立てすら見出されていない。 今年度は、従来技術の問題点を踏まえ、それらを克服することを目標に高純度のsCR1の産生方法、条件の最適化を行なった。鋭意実験を重ねたところ、血清を含む栄養培地を使った細胞増殖培養と、細胞がsCR1の産生を向上させ、以降の精製を困難としていた夾雑物の残留を抑える効果もある無血清培地から成る二段階細胞培養法、引き続き、ヘパリンを用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーとサイズ排除クロマトグラフィーから成る迅速な二段階カラム精製法を考案した。インタクトな状態で、しかも(微)結晶が得られるほど極めて純度の高いsCR1を再現性良く産生可能な培養・精製条件を見出した。今後は構造解析に耐え得る良質な結晶が得られるよう条件検討を進めていきたい。
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