研究概要 |
生体のホメオスターシスは細胞の増殖と細胞死とのバランスの上に成り立っている。ヒト成長因子、増殖因子により活性化されるPI3K-Akt細胞内シグナル伝達系は膜リン脂質の働きを介して、細胞内においてこの細胞増殖と細胞死を制御する中心的な役割を担っている。PI3K-Akt細胞内シグナル伝達制御の異常はヒト悪性腫瘍、糖尿病、自己免疫疾患など様々なヒトの疾病の発症に深く関与しており、創薬へ向けた分子標的として期待される。実際このPI3K-Aktシグナル伝達にはがん遺伝子(Oncogene)ならびにがん抑制遺伝子(Tumor Suppressor Gene)など多くのがん関連遺伝子が関与していることが知られている。しかし、PI3K-Aktのシグナル伝達による生体ホメオスターシス制御の分子機構の全貌はいまだ知られていない。PI3Kにより活性化されるセリンスレオニンキナーゼAkt (Protein Kinase Bの別称)は細胞死(アポトーシス)を制御する要の細胞内シグナル伝達因子である。我々は先にこの細胞死制御の要の分子であるAktのPleckstrin Homology Domain (PH Domain)に特異的に結合するプロトオンコジンTCL1の初期胚芽における発現の調節機構を明らかにするとともに、その構造と機能の解析に基づき、Aktと膜リン脂質(PIP3)との結合を阻害する結果、Akt活性を抑制し、in vivoでの抗腫瘍効果を持つAkt活性阻害剤"Akt-in"を開発した(国内、国際特許出願:WO2005/056594 A1、; Hiromura et al., J. Biol. Chem. 2006; Noguchi, et. al., FASEB J. 2007; Noguchi, et. Al., Curr Sig. Thera 2008)。
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