研究概要 |
Gタンパク質は細胞内でGTPが結合した活性型、あるいはGDPと結合した不活性型の主に2種類の状態で存在しており、外界からのシグナルを細胞応答へと導く伝達経路において分子スイッチとして働く重要な分子である。一方、MAPキナーゼは、Gタンパク質と同様広く真核生物に存在しており、細胞の増殖・分化、細胞死など多彩な細胞機能を司るシグナル伝達分子である。これまでにGタンパク質とMAPキナーゼとのシグナルのクロストークを明らかにし、Gタンパク質/MAPキナーゼを介するシグナル伝達経路が細胞の増殖分化のみならず細胞の運動をも調節することを癌化した細胞で示した。細胞の遊走は、癌細胞の転移、浸潤だけではなく、多細胞生物の発生過程、およびその後の個体の恒常性維持においても必須の現象であるが、その調節の機構は不明の点が多い。哺乳動物の大脳皮質形成時に脳室帯で増殖した神経前駆細胞は移動速度や形態を変えながら皮質側に移動し複雑な脳構造、神経回路網を構築する。本研究においてマウス胎児脳から調製した神経前駆細胞および脳切片培養系とアデノウイルス遺伝子導入系を用いてGタンパク質の一つであるGqとMAPキナーゼに含まれるJNKを介したGタンパク質共役受容体シグナルが神経前駆細胞の遊走を負に制御することを明らかにした。またGqと直接相互作用する新規分子Ric-8Aの遺伝子を単離し、その発現ベクターと組換え体タンパク質を調製してin vitro, in vivoでの解析を行った。その結果、in vitroでRic-8AがGqからのGDP遊離を促進するグアニンヌクレオチド交換反応因子として働くことを確認するとともに、Gq共役受容体の活性化に伴いRic-8Aが細胞質から細胞膜へ移行してGqシグナルを増幅することを明らかにした。
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