研究課題/領域番号 |
17370053
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川戸 佳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50169736)
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研究分担者 |
木本 哲也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助手 (60292843)
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キーワード | 海馬 / エストラジオール / ニューロステロイド / 記憶学習 / シナプス / ストレスステロイド / スパイン / 長期抑圧 |
研究概要 |
本年度は以下の進展を得る事に成功した。(1)脳内でのストレスステロイドの合成機構(1A)放射性ステロイドのラット海馬内での代謝を調べて、ストレスホルモン合成経路を解析した:その結果ストレスステロイド合成経路として「プロゲステロン→デオキシコルチコステロン→コルチコステロン」の代謝経路を最終的に確証した。「プロゲステロン→デオキシコルチコステロン」の代謝は「デオキシコルチコステロン→コルチコステロン」の代謝速度と比べて早かった。(1B)コルチコステロンの濃度を質量分析法を用いて測定・確定した:コルチコステロンの海馬内平均濃度は約500nMであり、血中濃度よりも有意に高かった。副腎を除去しても、海馬内コルチコステロンの濃度は維持されていた。(1C)海馬におけるストレスステロイド合成酵素の存在をmRNA解析で調べた。その結果、「プロゲステロン→デオキシコルチコステロン→コルチコステロン」の代謝経路を担うP450c21やP4502D4、P45011β1のmRNAの存在をRT-PCRによって確認した。P4502D4の分布をin situ hybridization法によって検討した結果、主に神経細胞に存在した。「プロゲステロン→デオキシコルチコステロン」の代謝が「デオキシコルチコステロン→コルチコステロン」の代謝速度と比べてかなり早く、かつP450c21の発現量はP45011β1よりも少ないことから、海馬神経細胞におけるデオキシコルチコステロンの合成にはP4502D4の寄与が大きいと考えられる。(2)昨年までに本研究によって海馬における男性ホルモン(DHT、テストステロン等)の合成を確証したが、本年度は海馬スライス神経細胞のシナプス伝達に対する男性ホルモンの作用を解析した。(2A)多電極を用いた同時電気生理解析によって、海馬神経シナプス伝達の長期抑圧(long-term depression ; LTD)に対するDHTの作用を、海馬の部位別に検討した。その結果、DHTはCA3領域あ神経細胞においてのみLTDを強化し、その他の領域(CAI、DG)ではLTD強度に影響を与えないことが判明した。CA3におけるこの作用は古典的アンドロゲン受容体の阻害剤によって抑制された。一方で古典的アンドロゲン受容体はCA1の錐体神経細胞に多量に存在するにも拘わらずDHTはCA1のLTDに影響しなかったことから、CA3と他の領域ではLTD制御に係るアンドロゲン受容体の機能様式が異なっているものと考えられる。(2B)DHTを海馬スライスに短期的に作用させ、単一神経細胞に蛍光色素(Lucifer Yellow)をインジェクションしてスパインの形状を可視化し、スパインの形態につき解析を行った。その結果、DHTを2時間作用させるだけで、CA1領域においてthinタイプのスパインが選択的に増加し、全スパイン密度が増大することを発見した。1神経に1万もあるスパインの自動解析を行うプログラムSpisoの開発を行い、使用に耐えるものを作成できつつある。
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