生物は光を情報へと変換するため、光センサーと呼ばれる一群の蛋白質をもっている。これまでに知られている動物の視物質、植物のフィトクロム、細菌のイエロープロテインはいずれも発色団の異性化反応によって光のエネルギーを蛋白質内部に取り込むが、最近になって発見されたフォトトロピンなど植物の青色光センサー蛋白質は、発色団として構造上、異性化反応が不可能なフラビン類をもつことが明らかになった。本研究では、フラビンを発色団とする光センサー蛋白質の光反応機構の解明を目的として、分光学的な解析を行った結果、以下のような成果が得られた。 (1)フォトトロピンの光反応は、フラビンと近傍のシステインとの共有結合形成であるが、両者は4Å以上離れており、三重項励起状態において、反応を促進するような機構(システインからのプロトン移動、水素原子移動、電子移動などの反応)が考えられている。我々は低温赤外分光法を用いて、三重項励起状態においてシステインがプロトン化していることを明らかにし、プロトン移動説、水素原子移動説を否定することができた。 (2)フォトトロピンはなぜ2つのフラビン結合部位をもつのかを明らかにするため、phy3のLOV1とLOV2の構造変化を比較したところ、キナーゼ活性をもつLOV2だけがβシートにまで及ぶ広範な構造変化を示すことがわかった。さらに同位体標識を用いて、アミドの信号などを帰属した。 (3)フラビンの近傍には2個の水分子が存在することが結晶構造によりわかっているが、低温赤外分光を用いて、活性化する際の水分子の水素結合変化を明らかにした。 これらのフラビン結合型蛋白質の研究成果に加えて、異性化を初期反応とするロドプシンなどの研究も行った。これらの成果として、2005年に12編、2006年に15編の原著論文を世界の一流紙に発表することができた。
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