細胞が小胞体ストレスを受けると、XBP1の前駆体mRNAがスプライシングされて成熟型mRNAとなり、この成熟型mRNAから活性型転写因子pXBP1(S)が翻訳されて標的遺伝子の転写を活性化することで小胞体ストレス応答が誘導される。このXBP1のスプライシングは細胞質スプライシングと呼ばれ、従来よく知られている核で起こるスプライシングとは異なる新規のスプライシング機構である。両者は分子機構が全く異なるだけでなく、その生物学的意義にも大きな違いが存在する。すなわち、オールターナティブ・スプライシングのようにスプライシングによってmRNAのコードするタンパク質の性質を変化させようとすると、核スプライシングでは細胞質に輸送したmRNAをスプライシングすることはできないので、新たにmRNAを転写してスプライシングする必要がある。一方、細胞質スプライシングであれば、細胞質で翻訳に供しているmRNAを細胞内外の状況に応じてそのままスプライシングして別のタンパク質をコードするように変化させることができるため、非常に迅速かつ無駄なく応答することが可能である。しかしながら、これまで細胞質スプライシングを受ける前の前駆体mRNAに機能のあるタンパク質がコードされている例は実際には知られていなかった。 今年度の研究によって、XBP1の前駆体mRNAにコードされるタンパク質pXBP1(U)は小胞体ストレスの回復期に発現が誘導され、活性型転写因子bXBP1(S)に結合して核から細胞質へ移行し、その分解を促進することを見いだした。すなわち、前駆体mRNAには負の制御因子、成熟型mRNAには正の制御因子がコードされており、小胞体内の状況に応じて両者の発現をコントロールすることによって、小胞体ストレス応答を巧妙に制御していると考えられる。この発見によって、細胞質スプライシングを受ける前駆体mRNAが機能のあるタンパク質をコードする例が確かに存在することが明らかとなり、細胞質スプライシングの生物学的な意義が明らかとなった。
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