XBP1は、ヒトの小胞体ストレス応答を制御する転写因子である。XBP1の発現はスプライシングによって制御されており、小胞体ストレス時にのみスプライシングを受けることで活性型転写因子pXBP1(S)が産生され、小胞体ストレス応答が惹起される。小胞体ストレス応答は、アルツハイマー病など神経変成疾患と深い関連があり、その分子機構の解明はこれらの疾患の予防や診断、治療に役立つと考えられる。 本研究によって、以下のことを明らかにした。 1.XBP1のスプライシングが、従来知られている核スプライシングとは全く機構が異なる細胞質スプライシングによつて制御されていることを明らかにした。このことにより、高等動物でも細胞質スプライシングが起こっていることが初めて証明することができた。 2.平常時に存在するスプライシングを受けていないXBP1前駆体mRNAからもタンパク質pXBP1(U)が翻訳されており、活性型転写因子pXBP1(S)の負の制御因子として働いていることを明らかにした。すなわち、小胞体ストレスの有無に応じ、翻訳の現場である細胞質でスプライシングを行うことで、正の因子pXBP1(S)と負の因子pXBP1(U)のどちらを発現するか迅速に切り替えていること、そしてこのことが小胞体ストレス応答に細胞質スプライシングという特異な機構が採用されている生物学的な理由であることが明らかとなった。 以上の成果は、小胞体ストレス応答の研究にとって大きな成果であると同時に、細胞質スプライシングという新しい研究分野を拓くこととなり、RNAの分野の研究者にも大きな影響を与えている。今後は、細胞質スプライシングの分子機構の全貌を明らかにするために、スプライシング反応に関わる分子群の同定を行う計画である。
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