研究概要 |
チロシンキナーゼは細胞外環境からの情報が細胞内シグナルへと変換される際に必須のシグナル分子であり、その多くは、ドッキング蛋白質と呼ばれるアダプター分子をリン酸化することによって細胞内シグナルを適切に駆動している.申請者らは新規ドッキング蛋白質としてDok-1を発見し、Dok-1とその類縁分子であるDok-2がサイトカイン受容体や抗原受容体、LPS受容体(TLR4)の下流において、Ras-Erkシグナル系の抑制を通じて、骨髄球造血や自然免疫応答の恒常性の維持に必須のシグナル分子として機能していることを解明してきた(J.Exp.Med,2004、J.Exp.Med.,2005)。そこで、本年度はT細胞におけるDok-1/2の機能について検討し、それが、T細胞を介した獲得免疫機構においても負の調節因子として機能していることを明らかにした。また、Dok-1/2と共に血球系細胞に高発現する類縁分子であるDok-3を含めた三重欠損マウスの樹立については、次年度での解析が可能な段階にまで進めている。 他方、Dok-1/2によるRasの抑制に重要なrasGAPをリクルートしないDok-3の作用機構については、そのチロシンリン酸化に応じて会合する分子としてGrb2を同定し、Dok-3がGrb2/Sos複合体によるRasの活性化を阻害することでRasの抑制因子として機能し得ることを明らかにした(Genes Cells 2006)。また、非造血系細胞については、筋肉特異的な発現を示す新規のDok類縁アダプター様分子を同定し、それが筋管における細胞骨格系の制御に重要であることを示すと共に、その遺伝子欠損マウスの樹立にも成功した。これらの成果に立脚し、当該アダプター分子の生理機能の少なくとも一部が次年度の解析によって解明されるものと予想している。さらに、線虫において同定したRasの活性化に重要なDok類縁分子についても、それが、卵形成における第一減数分裂前期の進行に必須であることを解明している。
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