研究概要 |
申請者はアフリカツメガエルを用いて頭部オーガナイザー及び予定頭部神経外胚葉に発現している新規小胞体分子Shisaを同定した。Shisaの過剰発現は胚前部構造を拡大し、アンチセンスによる機能抑制は頭部構造を縮小させた。さらに、ShisaがWnt及びFGFシグナリングを細胞膜に近いレベルで抑制することが明らかとなった。Shisaシグナリング制御メカニズムは、いままでに報告のない極めて特異なものであった。Shisaは未成熟な分子量の低い新生WntおよびFGFシグナリングレセプター蛋白と小胞体内にて特異的に複合体を形成する。さらにはN-型糖鎖付加をはじめとするレセプター蛋白質成熟過程を阻害することにより細胞膜輸送を抑制、結果的にシグナルの受容を阻害することが明らかとなった。同定された小胞体内シグナリング制御機構が生理的条件下でも機能し得るかをアフリカツメガエルの系によって確かめた。Shisaの機能抑制は、頭部神経組織においてレセプター蛋白の細胞膜輸送を促進し、リガンド刺激に対する反応性を高めた。その結果、頭部神経組織は後方化した。 以上の研究結果をもとに、申請者は細胞内小器官である小胞体が積極的にシグナリング制御にかかわる実験事実と、同メカニズムが個体発生において重要な役割を果たすことを世界に先駆け明らかにした。本研究は発生生物学だけでなく生物学全般において新たなシグナリング制御メカニズムの存在と、小胞体の新しい機能を示す希有な論文と評され、Cell誌(2005 Cell,120:223-235)に掲載された。
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