多くの動物の卵母細胞は、減数分裂の途中で細胞分裂を休止する。その休止時に、卵は受精に最適な細胞周期に到達する。もしもその時期以外で受精させると、発生が異常になる。すなわち減数分裂の休止は、正常発生を保証するための受精タイミング補正装置として役立っている。しかし、第1分裂中期(MI)休止における装置の詳細については、必ずしも明らかでなかった。 17年度に本研究では、ヒトデ卵母細胞MI休止において、Na^+/H^+エクスチェンジャーがMAPKカスケード依存的に活性化され、細胞内pHが上昇することでMI休止が解除されることを明らかにした。本年度は、ヒトデNa^+/H^+エクスチェンジャーのどの部分が、MAPKカスケードによってリン酸化され、活性化されているのかを明らかにすることを目的とした。大腸菌に発現させた野生型または突然変異型ヒトデNa^+/H^+エクスチェンジャーをヒトデ卵無細胞系に添加し、放射性ATPによるヒトデNa^+/H^+エクスチェンジャーへのリン酸化量を定量したところ、MAPKは直接リン酸化に働かないことが明らかになった。すなわちMAPKはp90RSKをリン酸化することで、活性化されたp90RSKがヒトデNa^+/H^+エクスチェンジャーのC末の3アミノ酸(セリン)をリン酸化することで、エクスチェンジャー活性化に働くことが明らかになった。本研究により、初めてMI休止解除の分子機構が明らかになった。
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