有尾両生類のイモリでは網膜を外科的に除去すると再生する。再生は色素上皮の分化転換によって進行し、網膜再生能は終生維持される。一方無尾両生類では、変態後にはレンズ再生も網膜再生もおこらないとこれまで考えられてきた。しかし、研究代表者は、カエル(アフリカツメガエル)でも変態後に網膜が再生することを初めて明らかにし、これを平成18年度に論文発表した。この研究の成果として、網膜再生を二つの異なる動物モデルで解析できるようになった。面白いことに、アフリカツメガエルでは、色素上皮細胞はいったん元の位置から遊離して、残された網膜血管膜に付着した後に、増殖分化して、網膜へと再生する。この網膜血管膜をも除去すると再生がおこらない。一方、イモリでは、色素上皮細胞は移動することなく、元の位置で増殖、分化して、網膜になる。この違いを解析することによって、色素上皮細胞の初期動態を細胞レベル、遺伝子レベルで解明することができると考えて、以下のような研究を実施した。 1.イモリとアフリカツメガエルの色素上皮細胞を培養し、神経細胞に分化転換する過程を細胞生物学的に調査した。細胞分裂、ニューロン特異遺伝子発現について比較検討した。その結果、基本的な細胞の振る舞いにはほとんど違いがないことが明らかになった。今後、眼球内再生と厳密に比較を進める。 2.両生類色素上皮組織の器官培養法を新たに開発した。この器官培養は、色素上皮シート単独、または脈絡膜着き色素上皮シートを膜フィルター上に静置し、さらにそれを種々の細胞外基質成分を含むゲルで覆う方法である。これによって、単独細胞シートから多重層の網膜層構築が形成されることを証明した。この結果は、in vitroで上皮シートから中枢神経層を構築したおそらく初めての報告であると考えている。現在、この過程での細胞増殖や神経細胞特異抗原の発現についての解析を行っている。 3.アフリカツメガエル受精卵に遺伝子導入し、トランスジェニック個体作製をおこなった。安定して、GFP遺伝子導入個体を作成できるようになり、これを遺伝子標識個体として、培養研究、移植研究に利用した。現在は、培養や移植後どの程度安定して導入EGFP遺伝子を発現するかをチェックしている。さらに、昨年度に引き続いて、色素上皮細胞で特異的に発現するRPE65遺伝子プロモーターの特異性を、GFPをレポーターにして検討した。 4.昨年度に引き続き、イモリFGF2の特異抗体を用いて、再生シグナルであるFGF2の眼組織内の分布を免疫細胞化学により調べた。網膜除去後の、FGF2およびFGF2のco-factorであるラミニンやプロテオグリカンの分布変化を調査した。
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