研究概要 |
人間は振動を不快だけではなく快適に感じることもある。身体のある条件に沿った好ましい刺激を与えることで気分が良くなることや,快を感じることがある。しかしながら,従来の振動・揺動研究は,人体に及ぼす不快な影響の生理的・主観的評価やその予測に興味が置かれているために,それらの研究のほとんどは、振動・揺動をいかに軽減できるかに着目した研究に特化することになり,振動自体を低減することが目標となっていた。これに対して,振動・揺動を積極的に活用する方向で研究を行っている例はほとんど見当たらないのが現状である。振動・揺動は人にとって不快感を与えるだけでなく,特定の快感情を誘発する傾向にある。そこで本研究では、快-不快評価のために多次元尺度構成法に従って「快感情」の分類を行い、快を構成する軸は、「積極的快-消極的快」「不快が取り除かれる快-満たされる快」であることを示すことができた。そこで、比較的心地良いと感じられる傾向にある長周期振動を与える自己制御可能なロッキングチェアを用いることで、揺動刺激下における快感情の生理・心理的評価の測定実験を行った。生理反応としては、血圧、脳波、心拍変動を測定した。この揺動実験において得られた「振動環境における快」に対する知見を確認するために、外部制御された上下振動刺激下における評価実験も実施した。実験においては、上下方向に周期振動する一軸加振台に乗用車用シートを取り付け、その上に被験者を着座させ、周期的な上下振動を与え、快・不快に関する評価実験と心拍変動の測定を実施した。その結果、振動によって消極的快や積極的快といった快感情が誘発される場合があることが確認され、揺動および振動刺激下における快感情評価で有効な生理・心理指標を得ることの可能性を示すことができた。
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