研究概要 |
本研究では熱帯地住人の熱放散反応特性を解明するため,1)下肢温浴テスト,2)イオントフォレーシス発汗テストをそれぞれ実施した. 1)下肢温浴テスト:11名のタイ人運動鍛錬者(Thai-T)と11名のタイ人同非鍛錬者(Thai-U)および10名の日本人に対し,25℃環境下で60分間下肢温浴テスト(42℃の湯に下腿を浸す)を負荷した.さらに,日本人には35℃環境下の60分間下肢温浴テストも負荷した.深部体温の調節には民族および運動トレーニングの影響はみられなかったものの,熱放散反応には民族および運動トレーニングの影響が認められた.すなわち,タイ人は日本人に比し発汗より皮膚血流量により依存した熱放散特性を有した.さらに,タイ人が運動トレーニングを継続すると,熱放散反応はより発汗に依存する傾向であったことから,長期暑熱順化したタイ人でも,その熱放散特性が運動トレーニングで修飾されることが示唆された.タイ人の高い皮膚血流量(vs.日本人)およびThai-Tの亢進した発汗機能(vs. Thai-U)は,前額および胸で顕著であった. 2)イオントフォレーシス発汗テスト:6〜18歳の57名のタイ人に対し,10%アセチルコリン溶液を用いた5分間のイオントフォレーシス法(2mA)で前腕屈側に発汗を誘発した.通電終了後5分間の発汗量と活動汗腺密度(ASG)を測定し,単一汗腺あたりの汗出力(SGO)を算出した.これまでの西洋人・日本人での先行研究結果と同様に,タイ人小児でもASGは体表面積と負の相関を,SGOは体表面積と正の相関を示した.ASGには性差はみられなかったが,SGOは女児が男児より低値を示した.10歳男児のタイ人と日本人(30℃環境下の45分間の中等度運動負荷時)におけるASGおよびSGOの比較において,SGOには民族差がみられなかったが,ASGはタイ人が高値を示した.これらの結果は末梢性発汗機能の発達には民族差が存在する可能性を示唆している.
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