研究概要 |
本年度は,熱帯地住人の熱放散特性を検討するため,タイ人と日本人の運動鍛錬者(Thai-TとJap-T)と同非鍛錬者(Thai-UとJap-U)を対象として,次の2実験を実施した. 1)運動時の発汗反応:Thai-T, Jap-T, Thai-U, Jap-Uに35%,50%,65%VO_2maxの自転車運動を各20分間,計60分間連続的に負荷した.安静時および各負荷強度時の直腸温・心拍数には有意な群差はみられなかった.総発汗量(g/m^2/h)は,Thai-U<Thai-T=Jap-U<Jap-Tなる群差が観察され,T・U群ともタイ人が日本人より有意に少なく,両民族ともT群がU群より有意に多かった.前額・胸・前腕の局所発汗量(SR)は,両民族とも50%・65%VO_2max運動時でT群がU群より有意に多かった.SRでは,Thai-U vs.Jap-Uには有意な群差はみられなかったものの,50%時の前額と65%時の前額・前腕でThai-TがJap-Tより有意な低値を示した.これらのSRに観察された運動トレーニングおよび民族差は,活動汗腺数ではなく,単一汗腺出力の相違に起因した.以上の結果,タイ人における発汗量の抑制は運動に伴う多量発汗時にも観察され,その抑制は末梢機構の変容に起因することが示唆された. 2)アセチルコリン誘発性発汗:上記実験で推察されたタイ人の発汗量抑制機序を末梢から詳細に検討するため,各被験者に前腕と大腿皮膚面に10%アセチルコリン溶液を2mAの直流通電で5分間それぞれ投与し,軸索反射性(AXR)・直接刺激性(DIR)発汗を測定した.その結果,交感神経節後線維の要素をより反映するAXRおよび汗腺自体の要素をより反映するDIRとも,タイ人は日本人より抑制されていた.その抑制は,タイ人でも運動トレーニングで日本人と同等に促進されることが示唆された.これらの民族差やそれに及ぼす運動トレーニングの影響には身体部位差が存在し,前腕より大腿で顕著だった.
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