研究概要 |
タイ人の20名の思春期前児童(B群:10歳前後),20名の若年成人(Y群:20歳前後),21名の中高年者(O群:60歳前後)に対し,(1)下肢温浴テスト(28℃環境下で下腿を42℃の湯に40分間浸す),(2)イオントフォレーシス発汗テストを実施し,熱帯地住人における熱放散反応の発育・老化特性を検討した.さらに,(2)のテストでは日本人のY群(27名)やO群(15名)とも比較して長期暑熱順化の影響も併せて検討した. (1)下肢温浴テス下:タイ人においも,日本人と同様に,B群はY群に比し発汗より皮膚血管拡張に依存した熱放散特性を示した.O群では前額・胸で有意に低い局所発汗量(SR)と皮膚血流量を示したものの,大腿ではそれらの差はみられなかった.この低いSRは活動汗腺数ではなく,単一汗腺あたりの汗出力の低下に起因することが明らかにされた. (2)イオントフォレーシステスト:1)B群vs.Y群;前腕・大腿ともに,軸索反射性発汗(AXR)には有意な年齢差はみられなかったが,直接刺激性の発汗量(DIR-SR)はB群がY群より有意に低く,この低いDIR-SRは活動汗腺数(DIR-ASG)ではなく,低い単一汗腺あたりの汗出力(DIR-SGO)に起因した. 2)O群vs.Y群;O群が大腿で低いAXRを示した.O群のDIR-SRは前腕・大腿ともに有意に低く,前腕の低いDIR-SRは低いDIR-ASGとDIR-SGOに,大腿の低いDIR-SRは低いDIR-SGOにそれぞれ起因した.3)日本人vs.タイ人;Y・O群ともタイ人は日本人より低いAXRを示した.DIR-SRは大腿でタイのY群が日本人のY群より低値を示したが,O群には前腕・大腿とも有意な民族差はみられなかった.DIR-ASGは前腕でY・O群とも,大腿でY群のみタイ人が高値を示した.DIR・SGOはタイ人のY群が日本人のY群より前腕・大腿とも低値を示した(O群間には民族差はみられなかった). 以上の結果,タイ人の汗腺機能にも発育・老化特性は観察されるものの,その変化は日本人より小さかった.そのため,長期暑熱順化が汗腺機能を抑制する影響は,若年成人でより顕著だった.
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