研究概要 |
培地の水条件への応答に関しては,イネ・コムギの乾燥・湛水への反応を検討した.徒手切片法で根の内部形態をみたところ,イネでは乾燥・湛水に関わらず通気組織が形成されたが,コムギでは湛水条件下で一部に形成されたのみであった.内皮細胞壁は,イネでは,乾燥条件下で肥厚がみられたのに対して,コムギでは逆に,湛水条件下で肥厚した,こうした根の内部形態の違いが,湛水処理にともなうどのような培地の理化学的特性の変化によって引き起こされているのかを検討するには,水耕栽培を用いて,通気の有無や水耕液の化学組成を変えてみることが有効である.現在,引き続き,実験中であるが,嫌気・還元状態の土壌で発生することが多い有害物質の硫化水素の有無が,こうした根の形態変化を引き起こす誘因物質として,有力な候補である.一方,塩分ストレスへの応答については,イネを対象に,耐塩性が強いと考えられている品種である日本晴と耐塩性が弱いと考えられているコシヒカリを用いて,培地中の塩分が種子根のカスパリー線の発達や形態に与える影響を調べた。100mM NaClまたは200mM NaClの存在下で生育させた5日齢芽生えの種子根から、ミクロスライサーを利用し横断切片を作成した。切片は、ベルベリンおよびアニリンブルーにより染色し、蛍光顕微鏡下でカスパリー線を観察した。種子根のカスパリー線の先端部位を特定し、カスパリー線の先端から根の先端までの距離を求めた。その結果、日本晴・コシヒカリ共に内皮・外皮カスパリー線いずれの場合でも、200mM NaCl存在下でその距離は有意に短くなった。特に外皮の場合はその程度が顕著であった。また、塩分ストレスでその距離が短くなる傾向には、品種による差は見られなかった。今後カスパリー線の発達にかかる時間に塩分ストレスが与える影響を調べる必要がある。
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