エチレンはガス状の植物ホルモンであり、高等植物の一生を通じて様々な成長段階で重要な働きをしている。とりわけ果実の成熟や野菜・花卉の老化など、園芸作物に与える影響は極めて大きく、エチレンの作用を人為的に制御することは、園芸分野において重要な課題である。我々はエチレン生合成経路の鍵となるACC合成酵素がリン酸化によって、その酵素の安定性が制御されていることを明らかにしてきた。今年度は、1)ACC合成酵素と結合して分解に導くと推定されるタンパク質(LeEOL;ETO1-Like)の結合様式を解析した。その結果、LeEOLは非リン酸化状態のACC合成酵素とは結合するが、リン酸化されたACC合成酵素とは結合しないことが明らかになった。このことは、ACC合成酵素がリン酸化によって、そのタンパク質の安定性が制御されていることを示唆している。次に2)ACC合成酵素を脱リン酸化するprotein phosphataseの同定を試みた。まずACC合成酵素LeACS2のC末端領域のリン酸化合成ペプチド13残基を合成した。このペプチドのN末端にはビオチンを付加し、C末端はカルボキシル基をアルデヒド基に置換した。すなわち、このペプチドは、それを認識したタンパク質の結合部位近傍のリジン残基のε-アミノ基と、C末端のアルデヒドを介して共有結合し、その後ビオチンを認識するストレプトアビジンカラムを用いて結合したタンパク質を回収することができる。回収されたタンパク質はperoxidase結合のストレプトアビジンで検出する。この方法で解析した結果、約35kDのシグナルが検出された。このタンパク質のサイズはprotein phosphataseの触媒サブユニットのサイズと一致していた。そこで、このシグナルの位置のゲルを切り出し、トリプシン消化後、質量分析計でタンパク質の同定を試みたが、protein phosphataseであるとの確証を得るには至らなかった。今後はさらにタンパク質の同定を試みる。
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