研究概要 |
サクラ属の配偶体型自家不和合性は花柱側因子であるS-RNaseと花粉側因子のSFBによって制御されていることが近年明らかにされた.しかしながら,S-RNaseとSFBがどのような機構で自己・非自己の認識に関わっているのかについては全く明らかにされていない.本研究の目的は,生化学的な手法や遺伝子導入法を駆使してS-RNaseとSFBの分子認識機構を解明し,バラ科サクラ属の示す不和合性における自己と非自己の認識機構の全貌を明らかにしていくことにある.研究開始後3年目にあたる本年度は,以下にあげる成果を得た. (1)S-RNaseとSFBの相互作用の解析:昨年度までに作製した抗体および花柱と花粉の粗抽出液を用いた実験やin planta共発現系を用いてS-RNaseとSFBの相互作用を確認するための実験を行ったが,相互作用は検出できなかった.これはSFBの発現量が少ないためであると考えられた. (2)形質転換実験:SFB遺伝子の植物への導入と発現のために,昨年度,作製したバイナリーベクターを用いてウメの形質転換を行ったところ,SFBの導入された形質転換系統がいくつか得られた. (3)自家不和合性共通因子の探索:昨年度までに自家不和合性共通因子の候補としてSLFL1の解析を行ったところ,ハプロタイプ特異的に欠失しているSLFL1が見つかり,SLFL1の共通因子としての可能性は低いものと考えられた.そこで,本年度はSLFL2とSLFL3の解析を行ったところ,これらもリンゴやナシの花粉側因子であるSFBBと系統発生的に近い関係にあり,自家不和合性共通因子の候補となることが明らかになった.
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