研究概要 |
1980年代から保全生物学が急速な発展を遂げている。保全教育は生物多様性を保全するための教育であり,保全生物学の教育部門である。里山は生物多様性が高く,人と自然との関わりが豊かなため,保全教育の場として適している。本研究では,明治大学の農場が移転する川崎市麻生区黒川において,保全教育と野外教育の関係の検討,農場の敷地計画の検討および自然保護の方策の検討,農場に隣接した放棄水田の再利用に伴う動植物の活性化についての検討を行った。当初は,大学生向けの特別のプログラムを作成することを目標としていたが,実際に里山と大学生が接すると,少しの工夫で学生が里山に興味を持って動き出した。ここで工夫というのは,「黒川谷戸プロジェクト」という名称をつけて担当の学生を決めて毎月活動の機会を設けたことである。学生は大変興味を持って毎月活動を行った。特別なプログラムは不要で,里山の自然と農家から学び,楽しんでいた。環境教育プログラムは大切であるが,対象そのものに教育力がある場合には,その教育力を生かすことがもっとも力を発揮するものと思われる。里山をフィールドにした大学生に対する保全教育の展開の場合には,学生が里山と農家に直接関わるように後押しするだけで十分であると考えられる。このときには,自然だけでなく,その自然とのかかわり方を熟知している農家が触媒的な役割を果たすので,欠くことができないことと,両者を結ぶコーディネーターが必要なことを忘れてはならない。
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