研究概要 |
Botrytis cinerea日本分離株におけるGタンパク質αサブユニット遺伝子であるbcg3の欠失変異は,主な栄養源をグルコースに限定した接種条件での病斑伸展の減衰を引き起こしたことから,宿主における抵抗性反応の打破や細胞の殺生に関する因子が正常に機能していない可能性が考えられた.そこで,Bcg3に転写制御を依存している可能性のある病原性関連遺伝子について定量的RT-PCRにより発現解析を行なった.カタボライト抑制性の発現様式を示すセルラーゼ(Ce15A)とキシラナーゼ(Xyn11A)をそれぞれコードする遺伝子の発現はbcg3破壊株において僅かに上昇し,H_2O_2発生に関与するグルコースオキシダーゼ(BcGod1)遺伝子は僅かに発現が減少した.これら遺伝子の発現の変化はcAMPにより野生型と同程度に回復した.一方,グルコース濃度を変えた培地で本菌を培養した場合,グルコース濃度依存的に分生子内の核数が増加し,核数の多い株ほど病原性が強くなるという報告がある(Phillips et al.1987).Bcg3の核数の増加における役割については現在検討しているところである. チューリップ栽培において重要な病原菌の一つであるBotrytis tulipaeは,枯死した罹病個体および球根に多くの菌核を形成し,植物残渣とともに土壌中で越年した菌核が翌年の伝染源となることが知られている.本研究では,in vitroにおける菌核の形成条件を検討した.まず,培地のpHおよび栄養条件による影響を調べたところ,成熟した菌核の形成には糖類の枯渇が重要であることが明らかとなった.B.cinereaでは,cAMP経路の上流に位置すると予想されるGタンパク質αサブユニット(BCG3)が糖の認識に関与し,菌核形成を負に制御することが報告されている(Doehlemann et al.2006;長田ら2006).そこで,本菌の菌核形成におけるcAMPの影響を調査したところ,cAMPを添加した培地において菌核形成の遅延が見られた.さらに,bcg3と高い相同性を持つGα遺伝子(btg3)の存在が確認されたことから,B.cinereaと同様に,BTG3及びcAMP経路が菌核形成に関与している可能性が示唆された.
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