イネで長期残効型薬剤の育苗箱処理が広く普及し、水田における薬剤防除回数の削減に大きく貢献してきたが、耐性菌の出現によって脱水酵素阻害型メラニン合成阻害剤(MBI-D剤)のいもち病防除効果が各地で低下している。また、育苗箱に使用される新たなストロビルリン系薬剤(QoI剤)の登場により、耐性菌の発生がいもち病でも危惧される。そこで本研究では、MBI-D剤、QoI剤等に対する耐性菌を、網羅的かつ迅速に検出できる新しい遺伝子診断技術を開発する。18年度は、QoI剤耐性菌の検出法開発に資するため、野生型チトクロームb遺伝子をもつQoI剤感受性菌を用いて、部位特異的突然変異法によりコドン143部位に耐性変異をもつプラスミドを作出した。また、これを用いてQoI剤に対する耐性変異をPCR-RFLPやリアルタイムPCRにより検出することを可能にした。さらに、野生型と変異型チトクロームb遺伝子断片を合成し、これらを識別する目的でオリゴDNAプローブを設計、合成して、蛍光ビーズとカップリングした。今後、QoI剤耐性変異のPCR-Luminex法による検出を試みる。MBI-D剤耐性いもち病菌は32府県で検出されているが、最近とくに、イネ種子の流通による耐性菌の広域伝搬が問題化している。そこで、それぞれMBI-D剤、QoI剤耐性をもたらすいもち病菌の変異型シタロン脱水酵素遺伝子とチトクロームb遺伝子を、イネの罹病種子や罹病葉から特異的に検出することに成功した。今後も耐性菌のモニタリングを継続するとともに、QoI剤についてはREMI法などで耐性菌を作出し、これを用いて遺伝子診断系の開発に役立てる。
|