イネで長期残効型薬剤の育苗箱処理が広く普及し、水田における薬剤防除回数の削減に大きく貢献してきたが、耐性菌の出現によって脱水酵素阻害型メラニン合成阻害剤(MBI-D剤)のいもち病防除効果が各地で低下している。また、育苗箱に使用される新たなストロビルリン系薬剤(QoI剤)の登場により、耐性菌の発生がいもち病でも危惧される。そこで本研究では、MBI-D剤、QoI剤等に対する耐性菌を、網羅的かつ迅速に検出できる新しい遺伝子診断技術を開発する。 19年度は、MBI-D剤耐性菌とQoI剤耐性菌の同時診断を目的として、PCR-Luminex法の適用を試みた。いもち病菌のチトクロームb遺伝子のコドン143部位にQoI剤耐性型変異(GCT)を導入したプラスミドと野生型配列(GGT)を持つプラスミドのDNAから、それぞれチトクロームb遺伝子断片をPCR増幅した。次いで、QoI剤耐性型配列と野生型配列からデザインしたオリゴヌクレオチドプローブを蛍光標識ビーズにカップリングし、これらをそれぞれのPCR産物とハイブリダイズさせた。その結果、チトクロームb遺伝子の野生型配列とQoI剤耐性変異型配列における1塩基の違いを、蛍光値の違いによって特異的に識別することができた。PCR-Luminex法によるチトクロームb遺伝子の塩基配列の識別は、イネの罹病種子や罹病葉からいもち病菌のDNAを直接抽出した場合にも可能であり、これにより耐性菌の早期診断が可能となった。さらに、チトクロームb遺伝子とMBI-D剤耐性に重要なシタロン脱水酵素遺伝子とを1回のPCRで同時増幅することを可能にした。以上のように、いもち病防除剤として重要なMBI-D剤とQoI剤に関して耐性菌の迅速・ハイスループット遺伝子診断法が開発され、今後耐性菌の発生、蔓延による被害の未然防止に活用されることが期待される。
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