想定される20E膜受容(mEcR)体の下流にあるシグナル伝達経路の検証を行い、以下のような、その全体を概観しうる結果を得た。mEcRはおそらくGタンパク質共役型(GPCR)であり、Gqサブユニットが共役している。次いで、phospholipaseC-βの活性化、inositol 3-phosphate(IP3)の生成と続き、これがセカンドメッセンジャーとして働く。IP3は小胞体(ER)のIP3受容体に結合し、Ca^<2+>の細胞内濃度上昇を促し、protein kinase C (PKC)の活性化を介してカスパーゼ3を活性化し、核とDNAの断片化に至る。一方、核の膨潤は、この経路とは異なり、カルモジュリン-CaMKIIの経路による。ただし、CaMKIIの活性化はCa^<2+>非依存的であり、Gβγ-DG経路による可能性はあるが、その機構は不明であり、残された課題である。また、新知見として、カスパーゼ3の活性化は、PKC阻害剤でもCaMKII阻害剤でも抑制されること、細胞形体の変化もCaMKII阻害剤で抑制されることから、細胞死はPKCとCaMKIIの二重支配下にあるものとされた。 mEcRのクローニングは、タンパク精製、単抗体作成の両面から進めたが、いずれも成功せず、現在はカイコガゲノムデータベースから可能性のあるGPCRを網羅的に拾い出し、そのすべてに対しての発現解析をRT-PCRにより行っている。可能性のあるGPCRは100数十であり、ほぼ半数の解析を終了したが、いまだに候補遺伝子を推定するには至っていない。
|