クワ乳液が有するタンパク質性の耐虫性因子の精製同定を試みると同時にこの諸性状について生化学的な検討を行った。乳液をNative PAGE、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィで分画した後、各画分についてエリサン幼虫を用いて毒性試験を行った結果、顕著な幼虫の生育阻害活性を示すタンパク質画分が存在した。その画分に含まれるタンパク質はトリプシン、キモトリプシン、エリサン消化液、およびカイコ消化液で分解されないことがわかり、タンパク質分解酵素耐性タンパク質であることが明らかになった。またこのタンパク質に対する抗体を作製し、他のクワ科植物にこのタンパク質が含まれているかゲル内2重拡散法により調べた結果、クワ科植物3種の乳液からはほとんど検出されず、クワ科植物群においてクワに特異的に進化してきた耐虫性タンパク質であると思われた。さらに、このタンパク質を精製しアミノ酸配列の決定に成功し、新規耐虫性タンパク質として特許申請を行った。 パパイア乳液が昆虫に対する殺虫性性発現機構に関して検討を行った。パパイア葉を食べたエリサン幼虫は数時間から2日で死亡するが短時間で死亡した個体は外見上、体の一部が黒化していた。そのような死亡個体を解剖すると中腸に孔があき、中腸自体もピンセットでつまめないほど軟化・液状化していた。中腸組織(1層の中腸上皮細胞からなる)を顕微鏡で観察すると、細胞自体は保たれていたが、細胞間の接着が弱化しており、丸い形をした細胞が多く、少し引っ張るだけで細胞群集がほぐれることが判明した。一方、乳液除去葉を食べ正常に成長した幼虫の中腸上皮細胞は互いに強固に接着しており引っ張ってもはがれず1層の細胞層を保っていた。本結果からパパイア乳液摂取幼虫では中腸細胞間接着タンパク質がpapainにより消化され張力に耐えられなくなった中腸上皮に孔が空き消化管内容物が血体腔に流出し幼虫が急死する可能性が示唆された。
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