研究概要 |
本研究では、カイコガを用い、ガ類昆虫がフェロモン腺で種固有の性フェロモンブレンドを生み出すメカニズムを包括的に解析し、その全体像を明らかにしようと試みた。カイコガの性フェロモン(ボンビコール)産生はフェロモン腺細胞がペプチドホルモンPBANの刺激を受けて促される。我々は、PBAN受容体(PBANR)遺伝子のクローニングに成功し、これが413アミノ酸からなる7回膜貫通型Gタンパク質結合型受容体(GPCR)であることを明らかにした。また、フェロモン腺でのRNAi法を確立し、フェロモン腺特異的遺伝子(desat1, pgACBP, mgACBP, pgFAR, PBANR)産物が実際にボンビコール産生に関わっていることをin vivoで実証するとともに、pgACBPがボンビコール前駆体脂肪酸の貯蔵体である脂肪滴の形成に直接関与することを明らかにした。また、ボンビコール産生に関わる新規遺伝子を同定するために、カイコガの公開ESTデータベースを解析し、フェロモン産生に関与している可能性の高いと予想される88個のクローンについてRT-PCRによる組織特異的解析を行い、25クローンがフェロモン腺で優先的に発現することを明らかにした。さらに、これらの遺伝子をRNAiで発現抑制することで、ひとつの遺伝子が脂肪滴からボンビコール前駆体を切り出すリパーゼをコードしていることを示した。また、カイコガにおいてPBAN刺激に伴ってリン酸化されるタンパク質を抗-リン酸化アミノ酸抗体を用いたImmunoblot解析で検索し、リン酸化を受ける5種類のバンドを検出し、そのうちの1つが、脂肪滴表面に会合して脂質分解で制御するLipid storage droplet protein 1 (Lsdp1)であることが示唆された。
|