アルミニウム(Al)イオンによる細胞増殖阻害機構について、タバコ培養細胞を用いて解析した。Alによる細胞伸長阻害ならびに細胞死に伴う様々な応答反応の時間変化(Al添加後24時間まで)を解析し、細胞伸長阻害機構と細胞死誘発機構の違いを明らかにした。概略は次の通りである。 (1)Alによる細胞伸長阻害機構:Alによる細胞伸長阻害は水吸収阻害として現れる。伸長阻害に至る初発の障害は、Alによるショ糖吸収阻害であり、その結果もたらされる糖欠乏が細胞内の水ポテンシャルを上げ水吸収を阻害すると考えられる。 (2)Alによる細胞死誘発機構:Alによる細胞死は糖欠乏による細胞死とは異なる。タバコ細胞をショ糖欠乏にした場合、細胞死(原形質膜損傷で検定)は、ショ糖欠乏処理期間中に誘発されるが、Alによる細胞死は、A1処理期間中にはみられず、Al処理細胞をAlを含まない培地に再懸濁した後に誘発された。なお、Al処理期間中に、ショ糖欠乏処理よりも多くの活性酸素が誘発され、活性酸素によりAl処理後の細胞死が誘発される。 次に、タバコ植物体を用いて、根の糖含量と光合成に対するAlの影響を解析した。Al処理により根伸長が阻害され、それとともに地上部から供給される糖が根端に蓄積すること、そのことが光合成を促進する可能性を見出した。ところで、多くの植物種に見られるAl耐性機構は、Alに応答した有機酸の放出を伴う。有機酸の放出には光合成で作られる糖の根への供給が不可欠である。ここでは、コムギ根を用い、有機酸放出がAlによる細胞伸長阻害のみならず細胞死をも抑制することを見出した。さらに、コムギの有機酸放出に関わる遺伝子ALMT1の発現制御の解析を行う過程で、ALMT1遺伝子の発現量以外に有機酸放出量を決める因子の存在が予想された。来年度は、糖代謝と有機酸放出量の制御との関係にも着目し解析を行う予定である。
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