研究課題
基盤研究(B)
酸性土壌における作物生育阻害の主要因子は、アルミニウム(Al)イオンであり、Alによる生育阻害機構やAl耐性機構の解明は、Al耐性作物の創出に必要な基礎研究である。本研究では、細胞伸長や根の生育に必要な糖に着目して、これらの機構を解析した。1.Alの糖吸収や糖代謝への影響:タバコ培養細胞において、Alは糖の吸収を阻害し、同時に細胞内の遊離糖の消費を促進した。これらが原因で、細胞内の浸透濃度が低下し、水吸収が阻害され、細胞伸長が阻害される可能性がある。2.根におけるAlストレスが光合成産物の転流に与える影響:根をAlに暴露すると光合成産物の転流量が増加した。3.Alによる細胞死誘発機構:タバコ培養細胞において、Alストレスと糖欠乏ストレスとは異なり、共に遊離糖含量を低下させるが、活性酸素種の誘発はAlに特異的であること、Alによる細胞死のプロセスに、液胞の崩壊と、細胞質のカルシウム(Ca)イオン濃度の変動が含まれることを見出した。4.Alに応答した有機酸放出に関する研究:コムギに見られるAlで活性化されるリンゴ酸放出の生理学的意味として、根圏のAlを無毒化するだけでなく、根の生育能の維持に必要であることを見出した。Al活性型のリンゴ酸輸送体は、ALMTl遺伝子にコードされているが、ALMTl遺伝子上流域に、発現制御に関わる重複配列を見出した。ALMTlタンパク質の膜配向性を明らかにした。5.イネの発芽に見られるAl耐性形質の遺伝学的解析:発芽期にAl高感受性を示すイネ変異系統を選抜し、矮性形質と連鎖している可能性を示した。以上、本研究によって、これまでに報告のないAlのエネルギー代謝への影響を見出した。今後は、その詳細について分子や遺伝子レベルで解析し、Al耐性をサポートする有機酸の代謝制御や、発芽における糖の分解や供給におけるAlの関わりを解明したいと考えている。
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