研究概要 |
昨年度までに、I262V,F275W,Q282N,Q282Yの4種の変異体酵素で、カルバゾール(CAR)の一水酸化物が生成されることが示されていた。今年度は、I262V変異体酵素を用いてこの化合物を大量調製し、精製後NMRにて構造決定を行った結果、本化合物を1-hydroxy-CARであると同定した。また、fluorene, fluorantheneへの酸化活性をGC-MSにて評価した結果、F275W変異体でfluoreneのmonohydroxyfluoreneへの変換効率が3%(野生型)から32%へと上昇したほか、F275A変異体でfluorantheneのmonohydroxyfluorantheneへの変換効率が0%(野生型)から10%へと上昇した。現在、各々の生成物の同定を機器分析にて行っている。また、dibenzothiopheneへの酸化活性を、HPLCにて測定している。 また、単一部位変異が活性に与える影響を基に二重変異導入箇所のデザインを行い、現在までに9種の二重変異体発現用ベクターの作成を終了したほか、2種をさらに作成中である。ベクター作成が終了したものから上記の基質に対する活性の検定を開始している。 上記の変異体酵素のうち、興味深い活性変化を示したI262VのX線結晶構造解析を行い、I262V酸化酵素-フェレドキシン複合体の構造を1.9Åの分解能で決定した。さらに、I262VとF275Wについて、それぞれCAR含有溶液とfluorene含有溶液への酵素結晶のソーキングを行い、基質:酵素複合体構造の解明に成功した。その結果、F275W:CAR複合体でのCARの結合位置は野生型とほとんど変わらなかった。一方、I262Vでは、酸化酵素の3カ所の活性中心のうち2カ所に基質が結合しており、両結合位置で違いが見られたものの、概して野生型酵素・F275W変異体酵素での結合位置と類似したものであった(活性中心・推定酸素結合位置が1,9a位に最も近い)。従って、1-hydroxy-CARの生成経路として、1,2位への酸化+脱水と、1,9a位への酸化+脱水(環開裂+脱水ではなく)ではないかと思われたが、後者の可能性が高いことが示唆された。すなわち、アミノ酸残基の変化が同じ酸化反応産物の自発的環開裂と脱水(2'-aminobipheny1-2,3-diolの生成)と、脱水のみによる1-hydroxy-CARの生成を制御している可能性が示された。
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